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2024年9月7日

難関大学院入試の政治学の対策とは?筆記試験と面接の注意点

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多谷洋平

慶應義塾大学大学院法学研究科修了

担当科目:政治学



「政治学について研究したいけど、院試ではどのような問題が出題されるのだろうか?」という悩みを抱えている方もいるのではないでしょうか。

ここでは政治学の中でも、日本政治思想史、日本政治外交史を例にして、政治学の院試対策を紹介します。

 

「政治学」と聞いて、思い浮かべることは多種多様だと思います。

 

政治思想史、政治理論、地域研究・比較政治、政治史・外交史、国際政治学、日本政治、行政学、公共政策、計量政治学、メディア政治論、などを思い浮かべる人がいたら、かなり詳しい部類に入るのではないでしょうか。

 

今回は、慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻修士課程の入試について、私自身の院試体験や研究生活も含めてご紹介します。


政治学の研究方法は多様そのもの

 

まずは、政治学の研究についてご紹介します。

 

政治学の研究では、思いつくだけでも、権力や権威、国家、秩序、国際社会、思想など多様な事象・概念を扱います。

 

研究方法も多様で、政治思想史のような質的研究もあれば、計量政治学のような数理分析を行う量的研究も存在します。

 

日本政治思想史、日本政治外交史の場合は、一次史料(公文書や政治家などの個人文書、メディアの言説など)に基づく質的研究が主流ですが、なかには計量分析を導入し、質的研究とは別の角度から実証研究を行う研究者もいます。

 

日本政治を研究対象とする場合、量的分析を主な方法論として用いた研究は、比較的、現代の日本政治を対象としていることが多いのですが、例えば、憲法をめぐるメディア言説の量的な変化の分析など、戦後政治史に新たな角度から迫る研究も存在しています。

 

このように研究方法は、まさに多種多様であり、政治学においては「研究方法論」自体を自身の専門分野の1つに掲げている研究者も存在します。

 

なお、私の場合は、学部生のときの卒業論文では、第一次世界大戦後の吉野作造の言説を扱い、修士課程では、戦後日本の国際法学者の安全保障をめぐる議論に着目して、修士論文を完成させました。


英米語学から日本政治思想史・政治外交史に鞍替え

 

次に、私自身の院試体験をご紹介します。

 

私はもともと外国語大学の英米語学科出身であり、日本政治思想史、日本政治外交史はまったくの専門外でした。

 

しかし、学部で外国語や諸外国について学んでいくうちに、「日本人は日本のことを知らない」という思いから、日本近現代史について専門的に学びたいと考えるようになりました。

 

そうしてたどり着いたのが、日本政治思想史、日本政治外交史という政治学の一領域でした。

 

私の場合、全国の文系大学院の志望者と同じように、まず過去問の入手を行いました。今日では、ウェブ上で過去数年間の過去問を公開している大学も増えています。このためインターネット上で過去問の検索をすることは、とりあえず有効と言えます。

 

ただし、過去問をウェブ公開せず、大学院の事務室でのみ閲覧と複写が可能、大学生協にて過去問の冊子を販売している、などの対応をしている大学もありますので、自分の志望大学院がどうかをまずは確認しましょう。


語学の勉強と専門科目の勉強を最優先に

 

語学試験の対策として、私は英語の勉強に力を入れました。

なお、大学院によっては、TOEICやTOEFL、IELTS、英検など、民間の語学検定で一定以上の成績を収めれば、語学試験は免除するとしているところもあります。すでに語学検定を受けている方などは、そうした制度の活用も考えると良いでしょう。

 

院試の語学試験(英語)の場合、英語で書かれた専門書から一部分が抜粋して出題され、英文和訳を課されることが多いです。そのため、自分の専門領域や関連領域に関する英語の専門書を読むと、語学力の向上と専門科目の勉強を同時に行えるため、効率的だと思います。Amazonなどで自分の関心に重なる英語の古典や専門書、概説書、入門書を探してみることをお薦めします。

 

例えば洋書の場合、Penguin Booksというペーパーバックのシリーズ、日本で言うならば文庫本の廉価版シリーズがあります。このシリーズには、小説や詩歌といった文芸作品のほか、プラトンやホッブズなどの政治思想史の古典も収められています。私はPenguin Booksでプラトンの『国家』の英語版を読みました。

 

なお近年では、北岡伸一氏の『日本政治史』の英訳版がThe Political History of Modern Japanとして出版されているように、日本政治思想史、日本政治外交史関係の書籍の英訳版が、刊行されるようになってきています。こうした書籍の英訳版に挑んでみるのも良いでしょう。

 

また、国際情勢の勉強も兼ねて、アメリカの週刊情報誌Timeにも目を通しました。Timeは比較的硬派なアメリカ政治や国際情勢の分析記事が多く、院試レベルの英文読解能力を鍛えるのに役立ちます。特に自分の研究分野に関連する記事があるならば、それを題材に英文和訳の練習をしてみると良いかもしれません。


専門科目は院試本番から逆算して1年間かけて対策

 

一方、専門科目の勉強については苦労しました。

そもそも私は外国語大学出身で、政治学について専門的な学部教育を受けていませんでした。このため私は、学部4年次の9月に実施される院試から逆算して、学部3年次の8月から約1年間をかけて専門科目の勉強をスタートさせました。

 

特に日本の近現代(幕末〜平成期)を対象とする日本政治思想史、日本政治外交史を研究対象にしたい場合は、以下のような書籍が、知識を蓄える上で有益です。

 

中央公論新社「日本の近代」シリーズ

講談社「日本の歴史」シリーズ

 

そのほか、岩波書店、ミネルヴァ書房、有斐閣、東京大学出版会、慶應義塾大学出版会など、大学教科書に定評のある出版社から出されている自分の専門領域に関する概説書や入門書。

 

また、岩波文庫、岩波現代文庫、講談社学術文庫、ちくま学芸文庫、中公文庫などの文庫本や、中公新書、ちくま新書、岩波新書などの新書も、院試用の勉強に役立ちます。

 

私の場合は、これらの書籍を図書館も利用しつつ、なるべく多く読むようにしました。

なお、自分の専門領域に関する書籍を読む上で大切なことは、書かれている内容を無条件に受け入れるのではなく、自分の問題関心から批判的に読むことです。ここで言う批判的とは、多角的・多面的な視点から書籍を読み込むということです。

 

政治学では、同じ事象・概念を扱っていても、論者によってその評価が多様なことがあります。したがって、院試用の勉強方法としては、自分の問題関心や立場からは、その事象・概念についてどのような評価ができるのか。常にそのことを念頭に置きながら、まさに「批判的」に読書することが大切です。

 

また、読書などのインプットだけではなく、アウトプット対策として、院試用に答案を書く練習も行いました。

 

過去問を活用しながら、時間を本番通りに取って、模擬試験を行ってみると良いです。自分に足りない知識は何か、どのように時間配分を行うのが良いのかなど、模擬試験を実施することで得られる気づきは少なくありません。


指導希望教員との事前接触についての注意点

 

なお、大学院の場合、院試を受ける前に、指導教員を希望する先生と事前に面談し、研究内容などが指導可能かどうかなどを、あらかじめ確認しておくことが長らく推奨されてきました。

 

しかし昨今、入試の公平性の観点から、大学によっては事前接触を禁止しているところもあります。私の感触では、私立大学は事前に面談し、研究内容などを確認することを推奨しているところが多いように思います。

 

一方、国公立大学の場合、事前に個別面談することを禁止し、大学院の公式の入試説明会などでのみ接触することを方針としているところが増えているように感じます。

 

したがって、自分の志望大学院が、指導希望教員との面談や相談についてどのような方針を取っているのかは、大学院事務室にメールで問い合わせるなどして、必ず確認することをお勧めします。


筆記試験は時間配分を考えてバランスよく解答しよう

 

次に実際の筆記試験について述べます。

 

現在の慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻修士課程の筆記試験は、語学試験1科目、専門科目1科目となっていますが、私が受験した当時は、語学試験1科目(私の場合は英語)、専門科目2科目(政治学+自分の専門領域)でした。

 

まず英語の語学試験(試験時間:60分)ですが、大問2問でいずれも英文和訳が課されました。

 

大問2問の場合、必ず両方の問題に答えるようにしましょう。つまり、どちらか一方のみ答えて、もう一方は手つかず、という記述は、点数配分の観点から極めて危険な回答方法です。多くの場合、語学試験は足きり用に課されるものであり、最低限度できていれば問題にされません。したがって、英文和訳の場合は、両問とも8割以上の分量の解答を目指しつつ、時間配分を考えて両方をなるべく長めに訳出するようにしてください。

 

続いて専門科目の試験について述べます。

 

「政治学」の試験(試験時間:60分)では、5問から1問を選択して解答する方法がとられました。

私は、スペイン出身の政治学者ホアン・リンスが提唱した「権威主義体制」について説明を求める設問を選び、解答しました。

 

特に私の場合は、「開発独裁」という概念との関連から、その定義、特徴、具体例、「権威主義体制」概念の現代における意義について、概要的に解答したと記憶しています。

もう一つの専門科目「日本政治」の試験(試験時間:60分)でも、5問から1問を選択して解答する方式がとられました。

 

私は、戦前と戦後の政党政治の共通点と相違点について説明を求める設問を選び、解答しました。詳しくは述べませんが、政党の役割について、戦前のいわゆる政党内閣期と戦後の議院内閣制を比較し、内閣と国会の関係性の違いに触れつつ、それぞれの定義、特徴、具体例、意義などをこちらも大まかに論じました。

 

とにかくこれだけの試験を1日で行うので、頭も体も疲労感はもの凄いです。

試験を受けて感じたのは、模擬試験など、アウトプット対策をしておいて良かったということです。院試対策では、どうしてもインプットに比重が置かれがちですし、それ自体は間違っていません。ただし、アウトプットは一朝一夕にはできないため、自分なりの対策を日頃から行っておくことをお薦めします。

 

なお解答は、いきなり答案用紙に書き始めるのではなく、控えの用紙が配られる場合はそれを活用して、解答案をまずは作成し、それを清書する形で答案用紙に書いていくようにした方が良いです。これも日頃から模擬試験などをしておくと、時間配分のペースが掴めますので、アウトプット対策を行う利点の1つだと思います。


専門性や方法論が備わっているかを見られる面接試験

 

続いて面接試験についてです。

 

面接は翌日、1次試験にあたる筆記試験を突破した人にのみ課されました。

私は一応、スーツを着て行きましたが、周りには普段着の人もいました。ただし、割合としては9:1でスーツ姿の学生が大半ですので、スーツを準備しておくのが無難だと思います。なお、8・9月の暑い時期に院試がある場合は、先生たちもいわゆるクールビズの服装をしていることが多いので、男子学生の場合は、ジャケットを羽織っていれば、必ずしもネクタイ着用にこだわる必要はないと思います。清潔感とまじめさをアピールする服装を心掛けましょう。

 

試験官は3人でした。1人は私の指導希望教員で、ほかの2人は同じ専門領域の先生でした。面接時間は30分弱でしょうか。しかし、実はかなり緊張してしまい、あまり時間感覚が分かりませんでした。

 

面接は、出願時に提出した研究計画書の内容にも触れつつ行われました。

なお、研究計画書は、実際に入学し研究を進めていくと、研究内容が変化していく場合が多いです。したがって、研究計画書の内容は、あくまで出願時の大まかな研究構想でかまいません。

 

聞かれた内容は、以下の7点です。

①志望理由

②入学後に行いたい研究の内容について

③卒業論文の構想について

④なぜこの大学院なのか

⑤なぜその指導教員なのか

⑥これまで読んできた本

⑦ほかの大学院は受験しているか

 

入学後に指導教員に聞いた話ですが、大学院の面接試験で重視されることは、その学生の専門性です。専門的な知識や、分野によっては専門技術、方法論を身につけているかなど、とにかくその学生が大学院でちゃんと研究活動を行えるかどうか、それを確認することが大学院の面接試験の目的だそうです。なお、当然のことですが、聞かれたことには素直に答えましょう。嘘や誇張などはほとんどの場合、面接が進むうちにバレます。


予想以上に忙しい研究生活:大学院の授業ではアウトプットが大切

 

学部と大学院の違いは、学部では、授業を受けて知識や技術をインプットしていくことが重視されるのに対し、大学院では、一定の専門性に基づいて、臨機応変にアウトプットすることが求められる点にあると思います。つまり、文系の大学院では(大学にもよりますが)、自分の研究内容についての院ゼミでの発表や、輪読文献の自分の担当部分に対する発表など、基本的に授業はゼミナール方式で進められます。

 

先生の話を聞いているだけで済む授業は、例外的なものだと考えてください。授業で求められることは、発表と質問、議論です。そのため、あくまで授業は、研究を進めて修士論文を書くための補助的な役割であり、授業での学びを活かしつつ、いかに優れた修士論文を書き上げるかが重視されます。大学院では、授業に出席することはもちろん半ば義務ですが、それだけではなく、日常的に自分の研究を進めていくことが大切です。

 

修士課程は、取らなければならない単位数も多く、就活や資格試験の対策、場合によっては博士課程進学の準備など、思いのほか忙しい2年間になることが通常です。ですが、そうした日常に忙殺されて、自分の研究が進められないという状態は本末転倒ですので、この点は常に意識しておきましょう。

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